TCFD提言に基づく情報開示

当社はTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)提言への賛同を表明しています。エネルギーの安定供給を担うというミッションのもと、各国政府や関係企業、地域社会と協力し、SDGsやパリ協定が掲げる「低炭素・ゼロカーボン社会の実現」といったグローバルな目標達成に貢献します。

気候変動リスクに対するガバナンス体制

当社はERM(エンタープライズリスクマネジメント)のフレームワークに基づき気候変動リスクについて対応しています。気候変動リスクは特別な対策を講じなければ経営へのインパクトが特に大きいと評価されることから、ERMの枠組みにおける、特に注意して対応すべき「特定リスク」の1つに選定しております。経営企画部門の執行役員はERMプロセスの管理責任者となっており、CEO、経営会議及び取締役会は特定リスクに関する報告を受け、対応の結果を監視・監督する体制となっています。

シナリオの選択

SSPシナリオ*1に基づき、2つの温度帯のシナリオを選択しました。
公表されているシナリオとその分析*2を検証し、各シナリオの世界観を定義しています。

世界平均地上気温変化予測(1850年から1900年平均との差)
  • *1SSPシナリオ:” Shared Socio-Economic Pathway(共通社会経済経路)”の略称。2100年までの世界の社会経済の変化に関するシナリオで2021年8月に発行された気候変動に関するIPCC第6次評価レポートで使用された。
  • *2気候変動関連リスク評価のため、以下8つのシナリオを調査
    - IEA: Stated Policies Scenario/ Announced Pledges Scenario/ Net Zero Emissions by 2050 Scenario.
    - Bloomberg NEF: Green Scenario/ Gray Scenario/ Red Scenario
    - DNV: Energy Transition Outlook/ Pathway to Net Zero

各シナリオの世界観

それぞれのシナリオについて2050年時点での世界観を以下の通り想定しました。

  4℃ シナリオ 1.5℃ シナリオ
概観 低炭素/脱炭素のトレンドは弱まり、化石燃料需要や上流投資が現状水準を保つ一方で、異常気象等の物理的リスクの発現が加速する 炭素規制他の政策が拡大し再生可能エネルギー(再エネ)や低炭素技術への投資が進展する: 再エネと低炭素が強く確立された世界
政策
  • 炭素税や排出権取引の導入拡大は限定的
  • 再エネへの支援政策に進展なし
  • 炭素税や排出権取引が広く普及
  • 再エネ及びグリーン技術への支援政策が整備
  • 化石燃料の使用が規制
エネルギー市場の変化
  • 電力供給に占める再エネ割合は僅かに増加
  • 水素他の新しいグリーンエネルギーの導入は停滞
  • 化石燃料需要は現状を維持
  • 原油価格は現状を維持
  • 電力供給の9割が再エネ
  • 水素他の新しいエネルギー源の導入増加
  • 化石燃料需要は大きく減少するも、最も高効率・低排出で持続可能とされる施設においては生産継続
  • 価格競争力があることから、主な成長領域として大水深の開発は継続
  • 原油価格下降
エネルギー会社(顧客)
  • 再エネ/グリーンエネルギー生産設備への投資は増加するが1.5℃に比べて低水準
  • 化石燃料:
    - 上流投資は現状を持続
    - 現状通り生産を継続
    - GHG排出の対策を強化
  • 再エネ設備およびグリーン技術への投資が増加
  • 化石燃料:
    - 生産減少
    - GHG排出への対策強化
    - 新規上流投資は大きく削減
    - 持続可能な資源生産のための低炭素ソリューションに対する投資を継続
浮体式生産設備業界
(他社および自社)
  • 再エネ設備の需要が増加するも限定的
  • グリーンエネルギー関連設備への需要が増加するも限定的
  • 石油・ガス生産設備への需要が増加
  • 炭素税導入に伴う化石燃料設備に対するコストが増加するも限定的
  • 再エネ設備の需要が増加: 風力発電等
  • グリーンエネルギー関連設備への需要が増加:水素・CCUSの導入が定着
  • 石油・ガス生産設備への需要は減少
  • 炭素税導入に伴う化石燃料設備に対するコストの増加
金融機関/投資家
  • 低炭素・環境配慮型事業への投資が進行するも限定的
  • 化石燃料事業への投資継続
  • 低炭素・環境配慮型事業への投資が進行
  • 化石燃料事業への投資停滞
物理的リスク
  • 異常気象の激甚化
  • 異常気象は 4℃ シナリオと比較すると抑制
新規参入/代替品
  • 新規参入の可能性は低い
  • 風力発電等知見のある企業の新規参入

気候変動に関連した主要なリスクと機会

気候変動のリスクと機会の評価は継続的なプロセスであり、気候変動がもたらすリスクを特定し管理することが重要です。当社では、潜在的なリスクと機会を整理するために、TCFDの手法を用いて、事業に対する初期的な検証・評価を行いました。

TCFDでは、気候変動リスクを「移行リスク」と「物理的リスク」の2種類に定義しています。

「移行リスク」と「物理的リスク」は、事業の財務パフォーマンスと持続可能性に重大な影響を与える可能性があるため、気候関連の財務情報開示の一環として、これらのリスクへのエクスポージャーを検討し、開示いたします。

移行リスク
政策や規制の変更、技術の進歩、消費者嗜好の変化といった、低炭素経済への移行に伴ってリスクが発生します。また、移行リスクは、市場における需要、資源の供給力及びコスト、ならびに競争環境の変化を通じて、事業に影響を与える可能性があります。
リスクの種類 シナリオ MODECへのインパクト 短中期 長期
政策・法制度 炭素価格 1.5/4
  • 建造からオペレーション段階までの産業排出による炭素価格や税といったコストの増加
 
規制 1.5
  • 化石燃料由来の製品やサービスの削減を加速させる規制圧力の増加
  • 炭素排出量目標に適合しないアセットの早期退役
 
市場 エネルギーミックスの変化 1.5
  • 石油・ガスプロジェクトへの投資削減、他のエネルギー源への投資シフト
 
原油・ガス需要減少 1.5
  • 石油需要の減少に伴うFPSOの受注減
  • 他の製品・サービスに対する消費パターンの変化
 
技術 短期間での次世代技術開発及び低炭素技術拡大への圧力 1.5
  • 市場の変化や新しい規制・法律に適合するための研究開発投資の増加
  • 現在市場に提供中の技術ソリューションの陳腐化加速
 
評判 石油・ガス産業へのネガティブな社会的評価 1.5/4
  • 当社に対するネガティブな評判による、顧客、投資家、地域社会を含めたステークホルダーとの関係性変化
  • ネガティブな評判による、当社製品・サービスへの需要減少、株価下落、規制・監視強化
  • 当社に対する評判による、従業員の士気減退や仕事への満足度の下落

財務

気候関連の追加要求による資金調達アクセシビリティの変化 1.5
  • 気候変動に関連した評価による資本コスト増加
  • 投資家・金融機関の損失リスク回避による投融資縮小
 
従業員満足度と定着 業界内の熟練人材の不足・関心低下 1.5
  • 将来の不確実性と当社が属する業界への非難による、熟練労働者の獲得・維持の困難化
 
物理的リスク
異常気象、海面上昇、熱波等、気候変動による物理的な影響から発生するリスクが挙げられます。これらの物理的リスクは、サプライチェーンや操業中の地域社会を通じて、直接または間接的に当社の事業やバリューチェーンの多方面に影響を及ぼす恐れがあります。物理的リスクが当社の事業に及ぼす潜在的なインパクトを下の表に示しました。
リスクの種類 シナリオ MODECへのインパクト 短中期 長期
急性 異常気象の激甚化 4
  • 異常気象や気象パターンの変化による事業の一部または全部の中断
  • オフショアでの操業をサポートする物流の中断
  • オフショアのアセットや機器への損傷
  • 労働環境における危険の増大
 
慢性 平均気温の上昇/ 降水・気象パターンの変化、海面の上昇 4
  • 陸上拠点や建造現場などへの悪影響
  • 人・ものなどのリソース動員の遅れやプロジェクト完了遅延
  • 先例のない恒常的な気候変動により、過去のデータに基づいた当社事業への影響予測や緩和策検討の困難化
 
機会
気候変動の緩和と適応に向けた取り組みは事業機会も創出します。当社事業において見込まれる機会は下記の通りであり、TCFD提言に基づいて分類しています。
機会の種類 シナリオ MODECへのインパクト 短中期 長期

エネルギー源

再エネ電源の活用

1.5/4
  • 浮体式洋上風力発電など再エネ市場における新しい機会の開拓
製品/
サービス
技術 再エネ事業の拡大 1.5/4
  • 浮体式洋上風力発電など再エネ市場における新しい機会の開拓
低炭素技術の普及 1.5/4
  • 化石燃料から排出されるGHG削減のための炭素回収・貯留技術に基づく製品・サービスによる保有するフリートの持続可能性向上
次世代技術の進展
  • デジタライゼーション・AIに関する専門性強化による石油・ガス業界以外の新製品・サービス開発
  • 操業効率改善によるエネルギー消費量削減、コスト低減、フリートの安全性及び持続可能性向上
市場 エネルギーミックスの変化 1.5/4
  • 石油・ガスに代わる再エネへの移行に伴い、代替製品・サービス(浮体式洋上風力発電など)への需要拡大
政策・
法制度
各国の炭素税、
炭素排出目標/政策
1.5/4
  • 炭素税の導入により、浮体式洋上風力発電、脱炭素FPSOやデジタルソリューションなどの低炭素エネルギー製品/サービスの新市場開拓
  • グリーン技術とデジタライゼーションの適用によりGHG排出量の低減、効率化、安全性における当社FPSOの差別化
その他   1.5/4
  • 再エネや低炭素に関連したビジネスの拡大見込みに基づいた能力の高い技術者の雇用確保
 

想定される事業へのインパクト

当社は1.5°Cシナリオにおけるリスクと機会についての事業へのインパクトの初期評価を行いました。
・評価の概要:既存の市場が停滞する一方で、脱炭素技術の開発と新規市場の創出による事業拡大が見込まれる。

この評価は当社の初期的な評価であり、今後も更なる評価を継続して行っていく予定です。特に、今後関連した情報やデータが更新または入手可能となった際には、当該シナリオにおける結果と紐づいている不確実性を再評価する必要性が出てくることが考えられます。

各リスク/機会項目 短中期 長期
炭素税の導入による費用の増加 Negative impact *1
化石燃料需要の減少に伴う市場の縮小 Negative impact
当社FPSOに対する脱炭素化技術の適用による既存市場でのシェアの拡大 Posotive impactPosotive impact
新技術による新規市場の創出 Posotive impact Posotive impactPosotive impact
化石燃料に関連した事業に対する資金調達手段の縮小/コストの上昇 Negative impact

*1 増加した費用については顧客による負担を想定

目標とロードマップ

事業モデルの着実な進化を通して、2050年ネットゼロ達成を目指します

当社は半世紀に渡りエネルギーの安定供給に貢献してきました。
今後は未来への架け橋となるべく、エネルギーの「安定的」かつ「持続可能」な供給に取り組んでいきます。
当社の強みとコンピテンシーを活用し、エネルギー移行における以下2つの重要な役割を担っていきます。

A: FPSOからのGHG排出量を低減しつつ、FPSOによる石油・ガスの安定供給に継続的に貢献
B: クリーンエネルギーの提供に貢献するため、事業モデルの進化を加速

事業戦略
FPSO 安定した低炭素FPSOに向けた 「継続中の」取り組み アセットインテグリティの改善
「中期的」な取り組み(実行中) 高効率エネルギー設計(コンバインドサイクルなど)及びハイドロカーボン回収
「長期的」かつ革新的な取り組み(開発予定) 抜本的な削減案の実現(燃焼後CCS、外部電源の利用など)
次世代の新造船体(開発中) 長期的な取り組みの基盤
浮体式
洋上風力
実機による実証試験の推進 2030年までの商用化を志向
日本のIPP市場への参入 2030年前半に400MW 規模の洋上風力ファームを組成し、規模を拡大
世界の浮体式風力発電業界への貢献 浮体技術を用い、戦略的顧客との取り組み強化
デジタル MODEC FPSOの脱炭素化への貢献 稼働率低下と非効率性の低減を可能とする先進的なデジタル分析技術
第三者設備における脱炭素化への貢献 当社製品・サービスの利用による第三者のオペレーション効率向上
その他 新規事業機会への挑戦 エネルギー移行に伴う事業ポートフォリオの多様化
FPSOからの炭素排出原単位
「FPSOからの炭素排出原単位」*1 を戦略的なKPIの1つとして設定し、大幅な削減に向けて取り組んでいきます。
FPSO Carbon Intensity
  • *1 炭化水素の生産あたりで排出される二酸化炭素換算値(トン)
FPSO Emission Source
2050年ネットゼロに向けた道筋
FPSOの脱炭素化やその他新規事業開発といった上記の戦略を進め、2050年「ネットゼロ」*1 達成に向けて取り組みます。
Pathway Toward Net Zero 2050
  • *1 -当社のScope 1、 Scope 2 及び Scope 3(Category 13 - リース資産のみ)排出を削減の対象とし、その残存量については新規事業によるGHG排出量削減を削減貢献としてオフセットする。例:従来型エネルギーを洋上風力発電に置き換える事により生じる削減貢献
    -同時にScope 3 Category 1 (サプライチェーン排出量)については調査中。
    -上記道筋の中で2030年までに Scope 1 and 2 についてネットゼロ達成を目指す。